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映画「さよなら、アドルフ」の感想

 

⚠️ネタバレ注意⚠️

 

この映画は2、3年前に観たものなのですが、色々考えさせられるものでした。

 

ナチスドイツをテーマにしたものである以上、当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、ストーリーは重いですね。

 

この映画は他のナチスドイツをテーマにした映画とはそもそも切り口が違います。

一般的に、ナチスドイツをテーマにした映画は、ナチスドイツがやってきたことの恐ろしさを伝えるものが多いかと思います。この映画もある意味ではそうなのですが、フォーカスされる人たちが異なるのです。迫害されたユダヤ人を主人公に、戦時下のドイツを描くのではなく、終戦後の「ナチスの子」にフォーカスしています。

 

主人公ローレはナチス高官の娘、14歳。所謂「戦犯の子」ですね。

映画の始まりでは、雲行きはかなり怪しいものの、まだドイツの負けが公式に発表されていません。ローレは父親を好いていて、母親のことも好いてはいるけれど、母親はいつも機嫌が悪いので顔色を伺っているような感じです。

初めの方ではローレがかなりナチスドイツを信じていて、ドイツの負けを疑わない様子がわかります。妹と無邪気に踊る様子からはナチスの子の裕福である様子とローレがまだまだ幼い少女であることがわかります。

しかし、ドイツの敗戦が公式に発表されて、ローレ達の立場は一変します。ヒトラーの側近である両親は出頭せねばならず、ローレと妹1人、双子の弟2人、乳飲み子1人は置いていかれます。母親は妹、弟たちを連れて東ドイツのローレの祖母の家に向かうようにローレに指示してから去ります。

そのためローレは妹や弟たちを連れて祖母の家まで歩いて長い旅をするのですが、その途中にナチスのしてきた残虐な行為を目の当たりにします。そしてそれに直接関わっていたのがあの大好きな父親であると知ります。この旅の中でローレはある青年と出会うのですが、この青年が謎なのです。ローレに性的な魅力を感じたのか、ずっと後をつけてきて怖いのですが、アメリカ兵に捕まりそうになったローレ達を助けてくれます。しかしそこでローレは、この青年が自分が忌むべきと信じているユダヤ人であることを知ります。そこからローレは青年を遠ざけようとしますが、まだ14歳の幼い少女1人で旅を続けるのはあまりに無謀であるため、彼を嫌いながらも助けてもらいながら祖母の家を目指します。ナチスに教育を受け、ユダヤ人を嫌うことが身に染み付いているローレは、助けてもらったにも関わらず、この青年を徹底的に嫌いますが、ローレの兄弟たちはまだ幼く、ナチスの考えが完全に浸透していないためか、頼れる兄として青年に懐きます。

この青年は本当に謎なのです。ユダヤ人かと思ったら、ユダヤ人である証明書のようなものが結局は全く別の人のものであることがわかり、本当は何者なのか分からないまま別れることとなります。ただ彼は犯罪者が押される刻印が腕にあったようで、もしかしたら犯罪者なのかもしれない。別人のパスポートを持っていた時点で、真っ当に生きている人ではなさそう。そもそもこの時代、真っ当に生きることができた人がいたのかどうかわかりませんが。

身分を詐称していたこの青年が何故ローレたちを助けたのか。単にローレに惹かれていただけなのかどうか。私にはわかりません。

ただ、この青年との出会いが、ナチスが正しいと信じて疑うことを知らなかったローレを変えることとなったのは明らかです。

ローレはおそらく生まれてから敗戦までずっと、ナチスドイツが素晴らしいとすりこまれて育った。そしてそれは彼女の世界の全てだった。ナチスドイツは彼女のアイデンティティそのものであった。

しかしそれは騙されていたに過ぎない。ローレは、ナチスドイツの本当の姿、肝心の部分を知らずにいたから。ナチスドイツの残虐な行為を知り、今まで自分が信じてきたものはなんだったのか、彼女のアイデンティティが揺らぎ出し、そしてユダヤ人青年との出会いが完全に彼女のそれまで信じてきたもの全てを否定した。青年が結局は誰であるにせよ、ユダヤ人パスポートに挟んであった幸せそうな夫婦の写真を見たことで、ユダヤ人も自分たちとなんら変わらない、普通の人たちで、嫌う必要性がどこにあったのかわからないと感じたのだろう。

そしてやっと辿り着いた祖母の家で、敗戦してもなおナチスドイツが正しいと信じる祖母に反抗する。それまでのアイデンティティを完全に捨てるため、ローレは母親の好きだった子鹿のオブジェを床に叩きつけて割る。

 

この映画が描きたかったのは厳しい環境で大人にならざるを得なかったローレのアイデンティティの喪失だろうが、ユダヤ人青年についてはっきりと知りたいと感じた。彼は何者なのか。なぜローレたちを助けたのか。原作を読めばもう少しわかるのかもしれないが、もう新品は手に入らないよう。

 

さよなら、アドルフ [DVD]

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